華やかな舞台の裏で、希少な最高峰のレースシートを狙う日本人ドライバー達が、今季もそれぞれのカテゴリーで熾烈な生存競争を繰り広げようとしています。
これまでにF1のレギュラーレースシートを獲得した日本人ドライバーは9人。
中嶋悟、鈴木亜久里、片山右京、井上隆智穂、中野信治、高木虎之介、佐藤琢磨、中嶋一貴、小林可夢偉。
2014シーズン以降、日本人ドライバー不在が続いています。
スーパーライセンス取得条件を満たし、2020シーズンに晴れて10人目のF1レギュラードライバーとなるのは誰か!?
日本人ドライバーの現状と条件をまとめてみました!
Table of Contents
スーパーライセンス(Super Licence)
スーパーライセンスを取得するためにはドライバーは以下の条件を満たし、FIAへ申請する必要があります。
スーパーライセンスポイント シリーズ別獲得ポイント一覧表
カテゴリー/ランキング | 1st | 2nd | 3rd | 4th | 5th | 6th | 7th | 8th | 9th | 10th |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
FIAフォーミュラ2 | 40 | 40 | 40 | 30 | 20 | 10 | 8 | 6 | 4 | 3 |
インディカー | 40 | 30 | 20 | 10 | 8 | 6 | 4 | 3 | 2 | 1 |
FIAフォーミュラ3 | 30 | 25 | 20 | 10 | 8 | 6 | 4 | 3 | 2 | 1 |
FIAフォーミュラE | 30 | 25 | 20 | 10 | 8 | 6 | 4 | 3 | 2 | 1 |
FIA WEC-LMP1 | 30 | 24 | 20 | 16 | 12 | 10 | 8 | 6 | 4 | 2 |
FIA公認欧州地域フォーミュラ | 25 | 20 | 15 | 10 | 7 | 5 | 3 | 2 | 1 | 0 |
フォーミュラ・ヨーロピアン・マスターズ | 25 | 20 | 15 | 10 | 7 | 5 | 3 | 2 | 1 | 0 |
スーパーフォーミュラ | 25(20) | 20(15) | 15(10) | 10(8) | 7(6) | 5(4) | 3 | 2 | 1 | 0 |
FIA WEC-LMP2 | 20 | 16 | 12 | 10 | 8 | 6 | 4 | 2 | 0 | 0 |
DTM | 20(15) | 16 (12) | 12(10) | 10(7) | 7(5) | 5(3) | 3(2) | 2(1) | 1(0) | 0 |
スーパーGT | 20(15) | 16(12) | 12(10) | 10 (7) | 7(5) | 5(3) | 3(2) | 2(1) | 1(0) | 0 |
フォーミュラ・ルノー・ユーロカップ | 18 | 14 | 12 | 10 | 6 | 4 | 3 | 2 | 1 | 0 |
FIA公認アジア地域F3 | 18(15) | 14(12) | 12(10) | 10(8) | 6(6) | 4 | 3(2) | 2(1) | 1(0) | 0 |
FIA公認アメリカ地域F3 | 18(15) | 14(12) | 12(10) | 10(8) | 6(6) | 4 | 3(2) | 2(1) | 1(0) | 0 |
IMSAプロトタイプ | 18(17) | 14 | 10 | 8 | 6 | 4 | 2 | 1 | 0 | 0 |
WTCC/WTCR | 15 | 12 | 10 | 7 | 5 | 3 | 2 | 1 | 0 | 0 |
インターナショナル・スーパーカーズ・チャンピオンシップ | 15(13) | 12(11) | 10(9) | 7(6) | 5(4) | 3 | 2 | 1 | 0 | 0 |
NASCARカップ | 15 | 12 | 10 | 7 | 5 | 3 | 2 | 1 | 0 | 0 |
インディライツ | 15 | 12 | 10 | 7 | 5 | 3 | 2 | 1 | 0 | 0 |
FIA F4 | 12 | 10 | 7 | 5 | 3 | 2 | 1 | 0 | 0 | 0 |
AsLMS/ELMS プロトタイプ | 10 | 8 | 6 | 4 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
WEC LM-GTEプロ | 10 | 8 | 6 | 4 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
WEC LM-GTEアマ | 10 | 8 | 6 | 4 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
IMSA GTLM | 10 | 8 | 6 | 4 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
アジアン・ウインター・シリーズ | 10 | 7 | 5 | 3 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
F3地域選手権 | 10 | 7 | 5 | 3 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
NASCARナショナル | 10 | 7 | 5 | 3 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
フォーミュラ・マツダ | 10 | 7 | 5 | 3 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
トヨタ・レーシングシリーズ・ニュージーランド | 7 | 5 | 3 | 2 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
インターナショナルGT3 | 6 | 4 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
FIAカート世界選手権シニア | 4 | 3 | 2 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
FIAカート・コンチネンタル選手権シニア | 3 | 2 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
FIAカート世界選手権ジュニア | 3 | 2 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
FIAカート・コンチネンタル選手権ジュニア | 2 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
()内は2018年までの獲得ポイント
スーパーライセンス取得の可能性のある日本人ドライバー
スーパーライセンスポイントを保持する日本人ドライバーの中には、中嶋一貴選手のように既に40ポイントを獲得しているドライバーもいます。
しかし、スーパーライセンスの申請にはF1チームとの契約を締結していることが条件となり、トロ・ロッソ・ホンダとの契約には事実上「ホンダ育成選手(HFDP)」や「ホンダ契約ドライバー」もしくは「レッドブル・ジュニアチーム所属」に限られます。(ホンダ以外のPUを使用するチームが、トヨタやニッサン系のドライバーにアプローチする場合は問題ありませんが…厳しいでしょう)
ここでは、2019シーズンにスーパーライセンスポイントを満たし、2020シーズンにF1デビューを果たす可能性のある5選手の状況と条件を紹介します。
松下信治 Nobuharu Matsushita(Age 25 =HFDP)
10Point ( -30Points )
2019 Season:10Points(2019) / 0Points(2018) / 10Points(2017):20Points
2019参戦カテゴリー
FIA F2:6th
所属チーム
FIA F2:Carlin(カーリン)
スーパーライセンスポイント条件
FIA F2:4th( 30Points )
FIA F2 オーストリアラウンド レース1で復帰後初優勝!
FIA F2オーストリアラウンドのレース1が行われ、4番手からスタートした松下信治選手(カーリン)がF2復帰後初にしてレース1自身初の優勝を挙げた。レッドブルのお膝元であるレッドブルリンクでの勝利は、F1昇格へ向けて大きなアピールとなったに違いない。ポイントスタンディングでは4位のセルジオ・セッテ・カマラ選手と大きな差があるものの、この勢いを維持できれば最終戦アブダビまでに勝負に持ち込むことができるだろう。
FIA F2 イタリアラウンド レース1で今季2勝目!
FIA F2オーストリアラウンドのレース1が行われ、5番手からスタートした松下信治選手(カーリン)が完璧なレース運びで後続を寄せ付けず、今季2勝目を挙げた。ポイントスタンディングでも4位のセルジオ・セッテ・カマラ選手との差を大幅に縮めることに成功。28P差の5位ジャック・エイトケン選手を攻略して、F1フリー走行出走可能となるスーパーライセンスポイント25Pを確実に確保してほしい。レース2も引き続き上位入賞に期待したい。
角田裕毅 Yuki Tsunoda ( Age 18 = Redbull Junior Team / HFDP )
19Points ( -21Points )
2019 Season:2Points(2019) / 12Points(2018) / 7Points(2017):21Points
2019参戦カテゴリー
FIA F3:67P 9th
ユーロ・フォーミュラ・オープン:151P 4th
所属チーム
FIA F3:Jenzer Motorsport(イェンツァー・モータースポーツ)
ユーロ・フォーミュラ・オープン:モトパーク
スーパーライセンスポイント条件
FIA F3:2nd( 25Points )
FIA F3 イタリアラウンド レース2で初優勝!
FIA F3イタリアラウンドのレース2が行われ、6番手からスタートした角田裕毅選手(イェンツァー)が自身初の優勝を挙げた。序盤の熾烈なバトルを勝ち抜いて15周目にトップに立つと、完璧なレース運びを見せてそのままトップチェッカー。レッドブルジュニアチームのヘルムート・マルコ博士も目を細めて褒め称える見事なレースだった。特にトップチームとは呼べないイェンツァーでの3連続表彰台&優勝は素晴らしい。既にスーパーライセンスポイント40P確保は不可能となったが、ポイントスタンディング5位のルンガー選手を捉えて、F1フリー走行出走可能となるスーパーライセンスポイント25Pを確保してほしい。最終戦も優勝や表彰台に期待したい。
名取鉄平 Teppei Natori ( Age 17 = HFDP )
10Points ( -30Points )
2019 Season:0Points(2019) / 10Points(2018) / 0Points(2017):10Points
2018参戦カテゴリー
FIA F3:1P 24th
ユーロ・フォーミュラ・オープン:115P 6th
所属チーム
FIA F3:Carlin Buzz Racing(カーリン・バズ・レーシング)
ユーロ・フォーミュラ・オープン:Carlin Buzz Racing(カーリン・バズ・レーシング)
スーパーライセンスポイント条件
FIA F3:1st( 30Points )
福住仁嶺 Nirei Fukuzumi ( Age 21 = Honda )
15Points (-25Points )
2019 Season:3P(2019) / 0P(2018) / 15P(2017):18Points
2019参戦カテゴリー
SUPER FORMULA:18P 7th
所属チーム
SUPER FORMULA:DOCOMO TEAM DANDELION RACING(ドコモ・チーム・ダンディライアン・レーシング)
スーパーライセンスポイント条件
SUPER FORMULA:1st ( 25Points )
ヨーロッパ修行を期待される若手日本人ドライバー
大湯都史樹 Toshiki Oyu ( Age 20 = HFDP )
5Points(-35Points)
2019 Season:3P(2019) / 1P(2018) / 5P(2017):9Points
2019参戦カテゴリー
JAPANESE F3:60P 4rd
所属チーム
TODA RACING(トダ・レーシング)
三宅淳詞 Atsushi Miyake (Age 19 = HFDP )
2019参戦カテゴリー
FIA-F4:130P 現在2nd(Rd.6/7)
所属チーム
HFDP/SRS/コチラレーシング
動向が気になるHFDP出身ドライバー
笹原右京 Ukyo Sasahara ( Age 22 )
15Points(-25Points)
2019 Season:18P(2019) / 5P(2018) / 10P(2017):33Points
2019参戦カテゴリー
FIA-F3アジア選手権:Champion
PCCJポルシェ・カレラカップ・ジャパン:Champion
所属チーム
FIA-F3アジア選手権:Hitech GP
PCCJポルシェ・カレラカップ・ジャパン:ポルシェ・ジャパン
阪口晴南 Sena Sakaguchi ( Age 19)
3Points(-37Points)
2019 Season:0P(2019) / 3P(2018) / 0P(2017):3Points
2019参戦カテゴリー
JAPANESE F3(スポット参戦):8th
SUPER GT(GT300クラス):1st
所属チーム
JAPANESE F3:カローラ中京 Kuo TEAM TOM’S
SUPER GT(GT300クラス):K-tunes Racing
山本尚貴はトロ・ロッソと2019 F1日本GP FP1出走を交渉へ!
山本尚貴 Naoki Yamamoto ( Age 30 = Honda )
38Points ( -2Points )
2019 Season:20P(2019) / 35P(2018) / 3P(2017):58Points
※2018 Season:35P(2018) / 3P(2017) / 3P(2016):41Points
2019参戦カテゴリー
SUPER FORMULA:33P 2nd
SUPER GT:6th
所属チーム
SUPER FORMULA:DOCOMO TEAM DANDELION RACING(ドコモ・チーム・ダンディライアン・レーシング)
SUPER GT:TEAM KUNIMITSU(チーム・クニミツ)
F1ドイツGPに来場!日本GPのFP1出走はFIA次第か!?
Welcome back, Naoki! Great to have you with us again 👊🏻#PoweredByHonda pic.twitter.com/3TLsIMnpLP
— Honda Racing F1 (@HondaRacingF1) July 25, 2019
山本尚貴選手が、F1ドイツGP目前のホッケンハイムを訪れている。元々、日本のレーススケジュールが空くこのタイミングで訪問することを決めていたようだ。トロ・ロッソのチームスタッフと共にトラックウォークにも参加するなど、今は確かな一歩を刻んでいる様子。
金曜フリー走行への出走については、「現行(但しプライベートテストでは2年以上落ち)のF1車両を用い最低2日間、300km以上の走行テストを実施」という条件を満たすマシンがレッドブル陣営に存在しない(パワーユニットが無い)ため、現在FIAと交渉中とのことだ。
逆に言えば、マシンが準備できればF1日本GPのFP1出走の可能性はかなり高まるかもしれない!?
二転三転!F1日本GPのFP1出走決定!
山本尚貴選手の日本GP FP1出走がFIAから認められた模様。一時は条件として「Hondaの2021年以降の参戦に関する覚書」を求められるなど、駆け引きに翻弄されて終わる可能性は高かったため、山本MD&山本選手のW山本・大逆転勝利と言えるでしょう!山本選手にはこのチャンスを大いに活かしてもらいましょう!!
レーススケジュール
FIA F2 & F3
- 3月29-31日:バーレーン(サヒール)F2
- 4月26-28日:アゼルバイジャン(バクー)F2
- 5月10-12日:スペイン(バルセロナ)F2&F3
- 5月23-25日:モナコ(モナコ)F2
- 6月21-23日:フランス(ポール・リカール)F2&F3
- 6月28-30日:オーストリア(レッドブルリンク)F2&F3
- 7月12-14日:イギリス(シルバーストン)F2&F3
- 8月2-4日:ハンガリー(ハンガロリンク)F2&F3
- 8月30日-9月1日:ベルギー(スパ・フランコルシャン)F2&F3
- 9月6-8日:イタリア(モンツァ)F2&F3
- 9月27-29日:ロシア(ソチ)F2&F3
- 11月29日-12月1日:アブダビ(ヤス・マリーナ)F2
フォーミュラ・ヨーロピアン・マスターズ キャンセル
- 5月3-5日:ホッケンハイム/ドイツ
- 5月17-19日:ゾルダー・サーキット/ベルギー
- 6月7-9日:ミサノ・ワールド・サーキット・マルコ・シモンチェリ/イタリア
- 7月5-7日:ノリスリンク/ドイツ
- 7月19-21日:TTサーキット・アッセン/オランダ
- 8月10-11:ブランズハッチ/イギリス
- 8月23-25日:ラウジッツリンク/ドイツ
- 9月13-15日:ニュルブルクリンク/ドイツ
- 10月4-6日:ホッケンハイム/ドイツ
SUPER FORMULA
- 4月20-21日:鈴鹿サーキット
- 5月18-19日:オートポリス
- 6月22-23日:スポーツランドSUGO
- 7月13-14日:富士スピードウェイ
- 8月17-18日:ツインリンクもてぎ
- 9月28-29日:岡山国際サーキット
- 10月26~27日:鈴鹿サーキット
FIA F2 & F3を無料視聴!
今季もDAZNではF1に加えてFIA F2とFIA F3も生中継!
「F1は川井ちゃんのいるフジテレビNEXT派!」という方も、一度「1ヶ月無料トライアル」を使ってDAZNを体験してみてください!確かにF1中継はタイムラグと初心者向けの解説がマイナスポイントですが、川井ちゃんよりもゴシップに反応してくれますし、Hondaの裏情報を聞けることもしばしば。また「F1ゾーン」ではメイン映像とオンボード映像を同時視聴することができ、バトルになるとテレビゲームのように2者のオンボード映像を見ることができて、思わず熱くなります!
そして、日本人若手ドライバーが3人も参戦するFIA F2&F3も視聴できるとなれば、今季のDAZNは要チェックです!!
KJインプレッションズ(2019.2.10)
松下信治、最大の挑戦!
全く予想だにしていなかった松下信治選手のFIA F2復帰。正直に言えば、日本でメディアを通じて知る印象は「前年にストフェル・バンドーン選手がタイトルを獲ったチーム体制で成績が奮わず、帰国を余儀なくされた」というものだった。しかし、それが間違いであったことは昨夏から出始めた記事で窺い知れるようになってきた。
松下選手をエースドライバーとして戦った2017シーズンは、バンドーン選手がタイトルを獲った時の優秀なエンジニアがチームを離脱しており、ARTは全く別モノのチームに変わってしまっていた。マクラーレンの後押しがあったからこどARTに強力なチーム体制が築かれたのであり、バンドーン選手が抜けた時から変質が始まったということだ。しかし、Hondaとしてはマクラーレンに変わってチームを支援するようなことはなく、ただお金を払って松下選手を預けたに等しい。そこそこ戦えても、タイトルを狙えるような環境ではなかったということだ。
それを最も実感していたのが松下選手本人であり、その悔しさは「何としてももう一度欧州でF2を戦いたい」という強力なモチベーションへと繋がった。Hondaの山本雅史モータースポーツ部長に再挑戦を懇願しても「SUPER FORMULAで勝ってから言え」。理に適った話ではあるが、FIA F2とSUPER FORMULAが全くの別物なのは周知のとおり。勝利には届かなかったが、もてぎではトップ争いを演じて見せた。そして松下選手はHondaに頼らずとも自力でFIA F2へ参戦できるよう自らスポンサーを集める。現在のFIA F2のシート代は2億~2億5千万といわれる大金だが、松下選手の好走と熱意は人々の心を動かし、遂に資金に目処がつくところまできた。
自らベルギーGPへ赴き、FIA F2の有力チーム関係者にアポなしで会ってシート状況を確認し、レッドブルのヘルムート・マルコ博士にも会って自身の存在をアピール。実はFIA F2関係者もそんな松下選手を高く評価していたことが明らかになっていく。そして遂にHondaは松下選手をHFDPとしてFIA F2に再挑戦させることを決めた。まさに人間・松下信治が勝ち取った欧州行き切符である。
所属チームは名門カーリン。再挑戦の舞台は整ったが、実質的な期限は1年。短期間で4位以内のポジションを固めなければならない。しかも、下のカテゴリーにはHFDPだけではなくレッドブルの支援も決まった角田裕毅選手の存在がある。プレッシャーは大きい。しかし、これまで以上に逞しく見える松下選手は、きっと良いリザルトを残してくれる筈だ。
大本命・角田裕毅
角田裕毅選手の渡欧は既定路線のように思えたが、まさかレッドブル・ジュニアチームに選出されるとは想像できなかった。レッドブルとの提携が決定して以降、Hondaの山本部長は「Hondaとレッドブルの育成プログラムを統合し協業していく」ことを示唆していたが、まさか実現するとは思わなかった。それだけに昨年のテストはヘルムート・マルコ博士に強烈なインパクトを与えたに違いない。
現在のレッドブル・ジュニアチームで最もF1昇格に近いと考えられているダニエル・ティクトゥム選手を含む合同テストに於いて、F3マシンを操るのが僅か2度目の角田選手は3日連続でトップタイムを記録。順応性の高さと純粋なスピードを披露してアピールに成功。晴れてレッドブル・ジュニアチーム入りを果たしたのである。
先日行われたFIA F3の合同テストで2番手タイムを記録した角田選手。昨季の福住仁嶺選手や牧野任祐選手と異なり、既にそのスピードでチームを驚かせ、信頼を獲得している。このまま順調に前進を続けていけば、年間4位以内は射程圏内にあると言っても過言ではないだろう。次の日本人F1ドライバー最有力候補に躍り出た。
但し、懸念が全くないわけではない。まず、イェンツァーというチームの実力である。かなり長く存在しているチームではあるものの、上位を争いをしていたイメージに乏しく、戦闘力は未知数だ。そして、昨季までF3ヨーロッパ選手権として開催されたフォーミュラヨーロピアンマスターズ(FEM)へのダブル参戦である。旧レギュレーションのF3マシンにハンコックタイヤの組合せとなるFEMのマシンと、FIA F3のマシンを毎週のように乗換えながら転戦することは、果たして吉と出るか?事が上手く進むうちはいいが、壁にぶつかった時にどうなるか?昨季の福住選手の例もあるだけに、やや心配である。
しかし、それさえも乗り越えたならば角田選手のF1昇格は近い将来に間違いないものとなるだろう。松下選手と揃い踏みで結果を残して、ヘルムート・マルコ博士と山本部長を大いに悩ませてほしいところだ。
名取鉄平の渡欧と福住仁嶺の帰国
角田選手と同様、FIA F3に参戦する名取鉄平選手。彼の渡欧には最も驚かされた。Hondaがもう1人若手ドライバーを海外挑戦させるとすれば、昨季の全日本F3でルーキーながら同じHFDPの阪口晴南選手を破って3位になった笹原右京選手になると信じて疑わなかったからだ。
あれだけの評価を得た角田選手と昨季のFIA-F4で、特に後半戦は互角に戦った名取選手の潜在能力の高さも疑いの余地はない。とはいえ、よりハイレベルで結果を残したのは笹原選手の方だ。これまでのHFDPであれば間違いなく名取選手は全日本F3へステップアップさせていた筈だ。
しかし、昨年のマカオGPで名門カーリンと共に仕事をした経験が好を奏してオファーを受け、名取選手のFIA F3 挑戦が決まった。しかも、チーム力は角田選手の所属するイェンツァーよりも上と考えられる。見事に大きな大きなチャンスを手にしたと思う。同世代の角田選手に先んじてF1のシートを獲得するには、チャンピオンになるしかない。彼にとっても今年は正念場である。
一方、辛酸を舐めて国内復帰することとなった福住選手にも今季は注目が必要だろう。現時点で角田選手に次いで2番目に多くのスーパーライセンスポイントを保持しているのは彼である。
松下選手が国内に戻っても”人間力”で欧州へ戻るという道を作ってくれた。ピエール・ガスリー選手が参戦初年度でもタイトルに肉薄できることを証明してくれた。しかも今季のSUPER FORMULAは新しいマシンに切り替わる。所属チームとなるダンディライアンは高いエンジニアリング能力を誇っており、チームメイトの山本尚貴選手は昨季の国内2冠を達成したトップドライバー。全てが上手く歯車が噛み合えば、GP3で見せたスピードを取り戻して大活躍しても何ら不思議ではない。
昨季はメンタルの不安定さを垣間見せることも多かったが、チームからの信頼を得られれば安定した走りを見せることができる筈だ。もう一度F1への挑戦権をえるためにも、自分より若い角田選手に先んじてF1にたどり着くためにも、今季はSUPER FORMULAチャンピオンを目指すしかない。同時にサーキットを離れても欧州再挑戦に向けてやれることは全てやるだけだ。明確な目標を得た彼がどのような走りと戦いを見せるのか、活躍に期待したい。
難しい立場にある山本尚貴
そんな福住選手のチームメイトを務める山本選手を取り巻くF1挑戦の情勢は非常に厳しい。昨季の国内2冠の歓喜と共にスーパーライセンスポイント40点を達成した山本選手。しかし、レッドブル陣営は山本選手の30歳という年齢から起用に難色を示しており、Hondaの山本部長もサポートを約束するとしながら、レギュラーシート獲得に繋がるような動きは見せていないことは周知の通り。
満額回答でも「F1日本GPでFP1に出走」となりそうな情勢であり、それさえも事前に「現行マシンで最低2日間300km以上の走行」が必要とされる為、ハードルは極めて高い。2年ぶりの復帰となるダニール・クビアト選手とルーキーのアレクサンダー・アルボン選手という布陣で今季に挑むトロ・ロッソとしても、プレシーズンテストは2人のドライバーに目一杯走らせたい筈で、ここで走行機会を得ることは無いだろう。
山本選手にチャンスがあるとすれば、2回のインシーズンテストとなる。レッドブルとトロ・ロッソで合せて2つのシートが”若手”に用意される。しかし、レッドブルもHondaも、この機会にティクトゥム選手、或いは松下選手や角田選手に経験を積ませたいと考える筈だ。現実的に、山本選手がF1の公式セッションに登場する可能性は極めて低いと言わざるを得ない。
ただ、それでも諦めないで欲しい。例えばアルボン選手が昨季のハートレー選手のような立場に追い込まれないとも限らない。その時に、レッドブルとHondaにとってスーパーライセンスポイントの条件を満たしているドライバーは山本選手しかいないのである。代役となる可能性はゼロでは無い。そうしたシチュエーションで山本尚貴選手に声が掛からないなれば、Hondaには日本から強烈な逆風が吹くだろう。それを追い風として、縷の望みを賭けるしかない。自分はまだトロ・ロッソのレーシングスーツ姿の山本選手を見ることを諦めはしない。
愚直な笹原右京と失意の阪口晴南
今季のHondaのドライバーズラインナップで最も納得できないのが笹原右京選手と阪口晴南選手の処遇である。
もちろん、自力で資金を集めて道を切り拓いた松下選手や、Hondaの若手で最多となるスーパーライセンスポイントを保有する角田選手が渡欧することに不満は一切ない。しかし「もう1人」を選出する際にどうして笹原選手ではなかったのか?彼は若手Hondaドライバーで角田選手に次いで、15ポイントのスーパーライセンスポイントを保有している。福住仁嶺選手と並び、松下選手を上回っている。欧州での経験も多く、状況次第では今季中の40ポイント獲得を狙える立場にあるのだ。
それでもHondaは名取選手を選んだ。名取選手が選ばれたことが悪いのではなく、彼を選んだ山本モータースポーツ部長の選択基準があまりに不透明過ぎて、疑問を呈する他ないのである。これでは『純血主義』と言われても仕方ない。それでもチャンスを与えてくれたHondaに感謝しながら、目の前のレースを全力で戦い、愚直なまでにF1を目指す笹原選手の姿は、応援する者の魂を揺さぶり熱くする。全日本F3で3年目のシーズンを迎えることが濃厚な笹原選手には、是非とも山本部長を見返して欲しい。そのチャンスは必ずある筈だ。
そして、阪口晴南選手である。彼の場合は「全日本F3に3シーズン乗って勝てなかった」「笹原選手に負けた」というエクスキューズは成り立つが、そもそもこのカテゴリーは何年もトムス1強状態が続いており、それを放置してきたHondaが理由とするにはあまりにも無責任である。福住選手や牧野選手同様、Hondaが「戦える環境」を用意しなかったことこそが、勝てなかった最大の理由である。何より、角田選手と名取選手に全日本F3を経験させずに欧州へ送り込んだことこそが、Hondaの非を認めているようなものだ。
阪口選手については、おそらくSUPER FORMULAにステップアップさせる選択肢もあっただろう。しかし、全日本F3での足踏みでスーパーライセンスポイントの蓄えをほとんど手放してしまった以上、タイトルを狙える可能性の低いSUPER FORMULAよりも他のカテゴリーに参戦させた方が良いだろう。しかし、現時点で欧州という選択肢はもう無さそうである。まさか、全日本F3で4シーズン目を戦うのか?それとも、このまま浪人となるのだろうか?
願望を言えば、北米でF3アメリカシリーズやインディライツなどのカテゴリーを戦って欲しい。欧州ではなくとも、海外レースを経験することは彼のキャリアにとって大きなプラスをもたらすだろう。サーキットを覚えられることもそうだし、英語のコミュニケーションもそうだ。それに、今の阪口選手には環境を変えることが重要だと思うのだ。
また、F3アメリカシリーズであればHonda製のエンジンを使用しており、有力チームにプッシュすることも比較的容易だろう。そして、実はピレリタイヤも経験することができるのだ。また、インディライツを戦うとすれば佐藤琢磨選手から様々なサポートも得られるだろう。
タイトルを獲得してもスーパーライセンスポイントは欧州よりも見劣りするが、F1を目指すにしてもインディカーシリーズを目指すにしても、現時点で整えられる環境としては申し分ないものだといえよう。果たして、阪口選手はどのカテゴリーに参戦するのか?朗報を待ちたい。
…そう思っていたところ、衝撃のニュースが届いた。願望は脆くも崩れた。あの『チーム郷』が日本のレースシーンに10年ぶりの復活を果たし、阪口晴南選手がSUPER耐久シリーズのドライバーとしてマクラーレンを操るというのだ。しかも阪口選手はK-tunes Racing、つまり岡山トヨペットのチームからレクサスでSUPER GTのGT300に参戦することになったという。S耐もGT300もスーパーライセンスポイント対象外。ましてマクラーレンやレクサスを駆るとなると、もうHondaとの関係は完全に切れてしまったのだろうか?19歳にしてF1の夢は諦めたのか?続報を待ちたい。
三宅淳詞にも注目!
SRS-Fのスカラシップを獲得してFIA-F4に参戦するのは三宅淳詞選手である。
彼は一昨年までフォーミュラトヨタ・レーシングスクールに所属し、TOYOTA YAMAHA RACING TEAMからカートに出走していた。HFDPに所属するドライバーとしては異色ドライバーである。彼がトヨタからHondaへ”鞍替え”した理由はただ一つ。F1の夢である。
トヨタがF1撤退を決めて以来、いずれはこういう時代が訪れることはわかっていたが、遂に来たか…という心境である。坪井翔選手や宮田莉朋選手もそうだが、彼らにとってのフォーミュラの頂点はSUPER FORMULAでいいのか?日本のモータースポーツファンにとって、3社間に横たわる高い壁は本当に不幸で残念なことである。
三宅淳詞選手が活躍して、経歴が紹介されればされるほど世間はその異色さに慣れていく。そして、当たり前になっていく。トヨタとHondaの間の壁を壊す存在の象徴となってほしい。大いに期待したい。
山本選手はフリー走行限定ライセンス(25pt以上)でFPは乗れませんでしたっけ。
初めまして!
F1走行経験の無い山本尚貴選手はフリー走行限定ライセンスを取得する条件として「現行F1マシンを使ってレーシングスピードで2日間300kmの走行」が必要となります。
しかし、プライベートテストでは直近2年間のマシンを使用することができず、レッドブルもトロロッソもそれぞれルノーやフェラーリのPUを持っていないため、現在はNA時代のマシンの使用で条件をクリアさせてもらえないか交渉中とのことです。
スーパーライセンスポイントも2017年にスーパーフォーミュラで取得した分について意見が割れているらしく、41pt持っていない可能性が出てきているとか。
ただ、今回の動きはホンダ側からではなくレッドブル側からのアプローチらしく、FIAの許可さえ出れば話は大きく進むことになりそうですよ!